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けはいをきくこと・・・北方圏における森の思想シリーズ「羆(シシ)に生る」2020

けはいをきくこと・・・北方圏における森の思想シリーズ
「羆に生る」 2020

坂巻正美

12000×700×2060 (mm)・2基/写真
2020年

熊文化について北海道の場所性やその歴史性を重ねてみると、その自然誌や考古学 ・民俗資料などから、熊と人の関係における奥深さが見えてくる。アイヌ神話では、熊が力の強い山の神として人と深い絆で結ばれ、ともに暮らし、神の国と人の村を行き来する。
日本の民俗風習のなかでも、熊は古来より魔を払いのける力を持ち、闇の世界を鎮め治める存在として尊崇されてきた。マタギたちも山の神の使いとして、山伏達は熊の真っ黒な姿を不動明王の化身と見たり、戦国時代の武将達は陣羽織や甲冑・槍鞘にも熊の毛皮を魔除けとしたり、無敵の神獣として祀られてきた。
また、世界に目を広げれば、ヨーロッパの王族の血筋が熊に連なり、熊と人を親兄弟や先祖とみる伝説、熊と人の婚姻譚など、種を越えた近親関係の伝説がある。これらの熊文化は、さらに、ユーラシアを経由し、日本の東北地方・北海道・ロシア極東から北米大陸へと熊文化ベルト地帯と言われる共通した民俗風習がみられる。その歴史・文化の流れは、人類発生の洞窟壁画やそこでの儀礼の痕跡にもみられる文化現象として遡れると聞く。
この作品では、この様なクマ文化を作品イメージの源泉とし、嘗て熊が持つ力に肖って生きてきた人類最古の叡智を、今ここで、この疫病蔓延の状況下で生きる我々が、どのような振る舞い方として使おうとするのか、思考し、感受するための形・空間をイメージしてこの作品を設えさせてもらった。

[This work was supported by JSPS KAKENHI Grant Number JP17K02345.]